貨幣供給
貨幣市場とIS-LM分析
この節では、貨幣市場の供給側を学びます。マネーストック(マネーサプライ)の定義、信用創造のメカニズム、中央銀行による金融政策の3つの手段を理解しましょう。
マネーストックと貨幣乗数
簡単にいうと
マネーストック(マネーサプライ)は「世の中に出回っているお金の量」!銀行の信用創造で元のお金の何倍にも膨らむのが貨幣乗数だよ!
① マネーストック(マネーサプライ)とは、金融機関以外の経済主体(家計・企業・地方公共団体など)が保有している通貨量の合計のことです。簡単にいえば「世の中に出回っているお金の総量」を指します。マネーストックにはいくつかの統計指標があり、どこまでを「お金」と見なすかで範囲が異なります。
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| M1 | 現金通貨 + 預金通貨(普通預金等) |
| M2 | M1 + 準通貨(定期預金等)+ CD |
| M3 | M2 + その他の金融機関の預金等 |
M1は最も流動性が高い「すぐ使えるお金」、M2・M3は定期預金など引き出しに手間がかかるものも含めた、より広い定義です。
② 信用創造とは、銀行システム全体を通じて、最初の預金の何倍もの預金が生み出されるメカニズムのことです。その仕組みを順を追って見てみましょう。
- まず銀行は、受け入れた預金の一部を支払準備(準備預金)として日本銀行に預けなければなりません。この割合を支払準備率といいます。
- 残りの部分は企業や個人に貸し出されます。貸し出されたお金は、別の銀行に預金されます。
- その銀行もまた支払準備を差し引いた残りを貸し出し、それがさらに別の銀行に預金されます。
- この「預金→貸出→預金→貸出…」の連鎖が繰り返されることで、当初の預金額をはるかに超える預金が銀行システム全体に創造されるのです。
③ 貨幣乗数(信用乗数)は、この信用創造で元の預金が何倍に膨らむかを表す数値です。
たとえば支払準備率が10%なら、貨幣乗数は倍です。つまり元の預金の10倍のマネーストックが生まれることになります。
④ ハイパワードマネー(マネタリーベース)は、日本銀行が直接コントロールできる通貨の量です。「現金通貨+日銀当座預金」で構成されます。日銀はこのハイパワードマネーの量を調節することで、金融政策を実行しています。
マネーストックとハイパワードマネーの関係は次の式で表されます。
マネーストック
具体例
ここでは、信用創造の具体的な計算を見てみましょう。
ある銀行にA社が1,000万円を預金したとします。支払準備率は10%です。
ステップ1 銀行は1,000万円のうち10%(100万円)を日銀に準備預金として預け、残り900万円をB社に貸し出します。
ステップ2 B社が受け取った900万円は別の銀行に預金されます。その銀行は90万円(900万円の10%)を準備として残し、810万円を別の企業に貸し出します。
ステップ3 このプロセスがどんどん繰り返されます。
最終的に創造される預金の総額は、貨幣乗数を使って一気に計算できます。
貨幣乗数
預金総額 万円(1億円)
つまり元の1,000万円の預金から、銀行システム全体で1億円の預金が生まれたことになります。派生的に創造された預金額は 万円です。
試験のポイント
- ・要は「貨幣乗数=1/支払準備率で、元の預金が何倍に膨らむかを示す」
- ・M1・M2の定義、ハイパワードマネーの構成(現金+日銀当座預金)、信用創造の計算問題が頻出
金融政策の3つの手段
簡単にいうと
日銀が使える武器は3つ!「公開市場操作」「公定歩合操作」「準備率操作」。今は公開市場操作が主力だよ!
中央銀行(日本銀行)がマネーストックの量を調整するために使う政策手段は、大きく3つあります。
① 公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)は、現在最も重要な金融政策手段です。日銀が金融市場で国債などの有価証券を売買することで、市中に流通するお金の量を直接的に調節します。
- 買いオペ(買いオペレーション) 日銀が市中銀行から国債を買い取ります。代金として銀行にお金が渡るので、市中に資金が供給されます。その結果、マネーストックが増加し、利子率は低下します。景気を刺激したいときに行います。
- 売りオペ(売りオペレーション) 日銀が保有する国債を市中に売却します。銀行がお金を払って国債を買うので、市中から資金が吸収されます。その結果、マネーストックが減少し、利子率は上昇します。景気の過熱を抑えたいときに行います。
② 公定歩合操作(基準割引率および基準貸付利率)は、日銀が市中銀行にお金を貸し出す際の金利を変更する政策です。かつては金利が規制されていたため、公定歩合を動かすと銀行の貸出金利も連動して変わり、大きな効果がありました。しかし現在は金利が自由化されたため、公定歩合の変更が経済に与える直接的な影響は限定的になっています。名称も「基準割引率および基準貸付利率」に変更されました。
③ 準備率操作(支払準備率操作)は、銀行が日銀に預けなければならない準備預金の割合(法定準備率)を変更する政策です。
- 準備率を引き下げると、銀行はより多くのお金を貸し出せるようになります。貨幣乗数が上昇し、マネーストックが増加します。
- 準備率を引き上げると、銀行が貸し出せるお金が減ります。貨幣乗数が低下し、マネーストックが減少します。
ただし、準備率の変更は経済への影響が非常に大きいため、現在の日本ではほとんど使われていません。
具体例
景気が後退しているとき、日銀がどのように対応するか考えてみましょう。
景気後退時(金融緩和政策):
日銀は景気を刺激するため、買いオペを実施します。日銀が市中銀行から国債を購入し、代金を銀行に支払います。すると銀行の手元資金(マネタリーベース)が増え、銀行はより多くの融資ができるようになります。信用創造を通じてマネーストックが増加し、利子率が下がり、企業の投資が活発になります。
あるいは準備率を引き下げる方法もあります。支払準備率を10%から5%に引き下げると、貨幣乗数は倍から倍に上昇します。同じハイパワードマネーでも、より大きなマネーストックが生まれるのです。
景気過熱時(金融引締め政策):
逆に景気が過熱しているときは、売りオペを実施します。マネーストックが減少し、利子率が上昇することで、過剰な投資や消費を抑制します。
試験のポイント
- ・要は「買いオペ→マネーストック増・利子率低下、売りオペ→逆」が最重要
- ・3つの手段のうち公開市場操作が現在の主力
- ・準備率操作の効果の方向(引下げ→乗数↑→MS↑)も出る
貨幣供給曲線
簡単にいうと
貨幣供給量は中央銀行が決めるから、利子率には依存しない!だからグラフは垂直線になるの!
① 貨幣供給曲線のかたち
貨幣供給量は、中央銀行の政策によって外生的に(つまり市場の利子率とは無関係に)決まります。日銀が「マネーストックをこの水準にする」と決めたら、利子率がいくらであろうと供給量は変わりません。
このため、横軸に貨幣量、縦軸に利子率をとったグラフでは、貨幣供給曲線は垂直の直線になります。これは「利子率が上がっても下がっても供給量は同じ」ということを視覚的に表しています。
② 実質貨幣供給量
分析では、名目値ではなく物価の影響を取り除いた実質値を使います。
実質貨幣供給量
ここでは名目貨幣供給量(額面上の金額)、は物価水準です。たとえば同じ100万円でも、物価が2倍になれば買えるモノは半分になるので、実質的な価値は50万円分ということです。
③ 貨幣供給曲線のシフト
貨幣供給曲線が動く(シフトする)のは、またはが変化したときです。
- 名目貨幣供給量の増加(買いオペなど) → 実質貨幣供給量が増加 → 供給曲線が右にシフト
- 物価水準の上昇 → 実質貨幣供給量が減少 → 供給曲線が左にシフト
つまり、日銀がお金を増やせば右シフト、物価が上がれば(お金の実質的な価値が下がるので)左シフトとなります。
具体例
具体的な数値で確認してみましょう。
いま名目マネーサプライが、物価水準がだとします。
実質貨幣供給量は です。
ここで日銀が買いオペを行い、を100から120に増やしたとしましょう。
実質貨幣供給量は に増加します。
グラフ上では、垂直の供給曲線が50の位置から60の位置へ右にシフトします。
一方、日銀が何もしなくても物価がからに上昇すると、
実質貨幣供給量は に減少します。
この場合、供給曲線は50の位置から40の位置へ左にシフトします。
試験のポイント
- ・要は「貨幣供給は利子率に依存しないので垂直線、中央銀行の政策でシフトする」
- ・実質貨幣供給量 の概念が重要
- ・増加→右シフト、上昇→左シフトの判別が出る
まとめ
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